生きる

生きながらえる

恋人の話・愛の話

去年の秋、久しぶりに恋人が出来た。恋人は存在自体がハッピーだ。周りからみると大したことなくても、わたしからしたら「こんな素晴らしい人が世界にいたなんて!」だし、思う存分愛を注げる相手がいるのはいいものだ。

ただ、好きになれば好きになるほど、気持ちを揺さぶられることが多い。恋人の一言で、天国から地獄に落ちることは多いし、逆も然り。もう本当に嫌だ。恋人は存在自体がハッピーだ。恋人の手に触れたり、頬に触れたり、額を撫でている間、間違いなくわたしは幸せだ。

しかし溶けるような愛をもってしても、わたしと恋人は他人なのだ。触れ合っている時ですら他人だし、わたしたちは血と肉の入った袋でしかない。温度は感じられても、心のなかは永遠に見えない。皮膚が透明であっても見えないものは絶対に見えない。

振られるのは絶対にわたしだ。きっとこう思っていることすら恋人は嫌なんだろう。だから言わない。でも振られるのは絶対にわたし。今の恋人はわたしをきっと愛してくれている、でも「きっと」は一緒にいる間ずっと消えないし、きっと永遠なんてものはない。

あなたがいなくなる日のことを考える。わたしの携帯に、あなたから短いメッセージが届く。そのメッセージを読んで、わたしは一瞬頭のなかを真っ白にして、携帯を閉じる。でもずっと準備はしてきたから、三回深呼吸をしてから携帯を開いて「わかった」って書いて送る。それから「今までありがとう」って書いて送る。わたし達はそれから一生会うことはない。それでも人生は続くし、わたしは他の人を愛するし、あなたは別の人を愛する。

温度が欲しい。触れる熱が欲しい。心は見えないし愛も見えない。不確かなものを抱えて生きる人間のかなしさよ。熱が欲しい。あなたがわたしに短いメッセージを送る前までの短い間、熱をください。少し先の一緒にいる未来を一緒に想像できたら、わたしは幸せだ。もう一体何が愛なんだろう。わたしが恋人に注いでいるものは一体何なんだ。胸がいっぱいになったりふわふわしたり悲しくなったり苦しくなったりするこれはなんだ。やっぱり温度が欲しい。裸で抱き合って眠りたい。

目の前の恋人も恋人の目に映るブサイクな顔した私も一思いにひゅっと消えてしまえたら揺らぐこともためらうことも泣くことも笑うこともないんだろう。愛ってなんだろう。