生きる

生きながらえる

帰りたくない

そろそろ部屋を退去しなくちゃいけない。ずっと使っていなかった備え付けだった白いシーツを久しぶりに洗って、窓から垂らして干した。少し肌寒いけど天気はよくて、たまに吹く風でふくらんだりしぼんだりを繰り返しながらシーツは乾いていった。

日本に帰りたくない。仲の良い隣人と連日ピザを焼いて遊んでいる。可愛い恋人は日本に着いてきてくれるけど、こっちで出来た友人たちと別れることが心細い。

ずっとやっぱり愛だなあと思っている。愛だ。全部愛。日本に帰って言葉がわかるようになるのが怖い。街に出てでくわす人々が向けてくれる微笑み、ぶっきらぼうな接客も大好きだった。言葉がわからない方が私にとっては幸せだ。

家を出る最後の日が想像できない。ただ、日本に帰って日本にまた馴染んでゆく自分は想像できる。

帰りたくない。一生この時間が続くなら私は本当に何もいらない。でも時間は流れる。いやだなあ。みんな結婚なんて仕事なんてしないで一生このままでいようよ。